はじめに

こんにちは。弁理士の室伏です。

個人的な話ですが、地方の中小企業経営者、経済団体の方、県の方々とお会いしたとき、
「弁理士に初めて会いました」
「出願をしたことがないです」
「知財については、ほとんど話を聞いたことがないです」
とおっしゃる方が多いです。

残念ながら「弁理士」や「知財」についての地方での認知度は、まだ十分ではないと肌で感じています。

認知度が低いということは、知財の権利をとろうとする意欲がある企業が地方では少ないのではないか・・・

今回は「知財の権利をとろうとする意欲」を「知財意識」と称して、「本当に地方は知財意識が薄いのか?」を簡単に検証してみました。

都道府県別の出願件数

検証するのに最も簡単な方法は、都道府県別の出願件数の比較です。2021年の都道府県別出願件数のデータは、特許行政年次報告書 2022 年版から入手できます。

(1)都道府県別の特許出願件数(2021年)

まずは特許出願から見ていきます。2021年の特許出願件数の都道府県ランキングは、以下の表1のようになりました。

表1:2021年の特許出願件数ランキング

予想通りトップ3は、東京、大阪、愛知です。まあそうなるでしょうね。

弊所が所在する和歌山は178件であり38位でした。月に15件程度の特許出願が和歌山の企業からされていることになります。

(2)都道府県別の商標登録出願件数(2021年)

次に商標登録出願を見ていきます。2021年の商標登録出願件数の都道府県ランキングは、以下の表2のようになりました。

表2:2021年の商標登録出願件数ランキング

こちらも予想通りトップ3は、東京、愛知、大阪です。まあそうなるでしょうね。

弊所が所在する和歌山は478件であり36位でした。月に40件程度の商標登録出願が和歌山の企業からされていることになります。

都道府県別・1企業当たりの出願件数

出願件数を都道府県別に見てきましたが、地域によって企業の数が異なるため、件数が少ないからといって知財意識が低いとは言えなさそうです。

そこで地方の知財意識をより詳細に見ていくために、1企業当たりの出願件数を調査しました。

都道府県別の企業数については、2019年版中小企業白書の付属統計資料6表から入手できます。

具体的には、さきほどの出願数÷企業数により、1企業当たりの出願件数を調査しました。ここでは少し古いですが2016年の「中小企業数と大企業数の合計」を企業数として使用しました。

(1)都道府県別の1企業当たりの特許出願件数

まずは特許出願から見ていきます。1企業当たりの特許出願件数の都道府県ランキングは、以下の表3のようになりました

表3:1企業当たりの特許出願件数の都道府県ランキング

総数ではトップ3に入っていなかった京都が2位にランクインしています。

弊所が所在する和歌山県は0.005件であり35位でした。和歌山の1企業当たりの特許出願件数は、全国的に見ても高くはないようです。

工業地帯があり人口も多い福岡や千葉が20位代後半であるというのは意外です。多少の番狂わせはあるものの、ランキングの半ばから下の方を見ていくと、やはり地方が目立ちますね。

(2)都道府県別の1企業当たりの商標登録出願件数

次に商標登録出願を見ていきます。1企業当たりの商標登録出願件数の都道府県ランキングは、以下の表4のようになりました。

表4:1企業当たりの商標登録出願件数の都道府県ランキング

商標についても、総数ではトップ3に入っていなかった京都が3位にランクインしています。

弊所が所在する和歌山は0.014件であり31位でした。1企業当たりの商標登録出願件数も、特許と同様に全国的に見ても高くはないようです。

また1企業当たりの特許出願件数が最も少なかった沖縄は、商標になると17位にきています。特許を出願する業種はある程度限られてくるのに対して、商標は業種を問わないため、特許と商標の順位差は地域の産業構造を反映していそうです。

考察

年間の特許出願件数、商標登録出願件数、1企業当たりの特許出願件数、1企業当たりの商標登録出願件数を都道府県別に調査しました。

弊所が所在する和歌山はどの項目でも30位代であり、積極的に権利化しようという企業が全国的に見て少ないようです。逆にいうと権利化されていない技術やネーミングがたくさんあり、今後知財面でやれることはたくさんありそうです。

もちろん東京や大阪などの大企業が多い都道府県は1企業当たりの出願件数が上がる傾向にあります。特許出願件数のうち82.5%の出願が大企業によるものであり、一方で商標は38.7%の出願が大企業によるものです(参考:特許行政年次報告書 2021 年版第3章)。

したがって中小企業の1企業当たりの出願件数を都道府県別で比較するほうが、より実情を示しているかもしれません。機会があれば、こちらも調査してみたいと思います。

では、また!