Q
新規性と進歩性の違いは何ですか?
A

ざっくりと言うと…
1件の先行技術に自分の発明がまるまる含まれている場合、「新規性なし」。
複数の先行技術を組み合わせると自分の発明が容易に思いついてしまう場合、「進歩性なし」。

新規性

(1)概要

新規性とは、出願にかかる発明が客観的に新しいことを言います。

特許制度は、新規な発明を公開する代償として、一定の期間、独占権を付与するものです。したがって、出願時点で既に公開されている技術に独占権を与えることは、特許制度の趣旨に反します。

そこで、新規性の要件が定められています。

(2)新規性がない発明の類型

特許法では、以下の発明は新規性がないと規定されています。

  1. 出願前に国内外で、公然知られた発明(公知発明)
  2. 出願前に国内外で、公然実施をされた発明(公用発明)
  3. 出願前に国内外で、配布された刊行物に記載 又は インターネット等を通じて公開された発明(文献公知発明)

「公然」とは秘密を脱した状態です。発明の内容が秘密保持義務のない者に1人でも現実に知られたら、「公知発明」に当たります。なお「知られ」とは「発明が技術的に理解され」るという意味です。

知られてなくても、知られるおそれがある状況で実施されれば、「公用発明」に当たります。「知られるおそれがある状況」とは、例えば工場である物の製造状況を不特定の者に見学させた場合において、その製造状況をみればプロだったら容易に知ることができるような状況です。

本や公報に記載されていたり、ウェブサイトに公開されていた場合、「文献公知発明」に当たります。不特定の者がアクセスできる環境にあれば、実際に知られているかどうかは関係しません。つまり、現実にアクセスされなくても、これに当たります。

新規性欠如の拒絶理由が通知される場合、大抵は文献公知がきます。

(3)自分の発明が1件の先行技術にまるまる含まれていれば「新規性なし」

公知、公用、文献公知となった技術を、「先行技術」や「従来技術」と呼びます。

自分の発明(出願にかかる発明)が1件の先行技術にまるまる含まれていれば「新規性なし」となります。「まるまる記載される」とは、先行技術と自分の発明との間に相違点がないことを示します。なお、ここでの発明とは、特許請求の範囲に記載された発明(クレーム)です。

例えば自分の発明が「A+B」という構成であり、文献に「A+B」という構成の技術が記載されている場合は、新規性なしとなります。

自分の発明(出願にかかる技術)先行技術
A+BA+B
新規性なしの例

進歩性

(1)概要

進歩性とは、当業者(=その業界において通常の知識を持っている人)がその発明を容易に考え出すことができない困難性を言います。

通常の人が容易に思いつくような発明に対して特許権を与えることは、社会の技術の進歩に役立たないばかりか、却って妨げとなります。

このため、進歩性の要件が定められています。

(2)先行技術から容易に思いつけば「進歩性なし」

自分の発明がA+Bであり、先行技術Aと先行技術Bが別々の文献に記載されているとします。この場合、新規性なしとはなりません。しかし先行技術Aと先行技術Bを組み合わせると自分の発明が形式的に得られてしまいます。これは特許的に問題がないのでしょうか?

このように「先行技術A+先行技術B=自分の発明」になる場合は、進歩性がない可能性が高いです。

ただし安易に判断してはいけません。なぜなら進歩性は、先行技術から自分の発明を「容易に思いつけるかどうか」を検討することにより実質的に判断されるからです。

つまり、形式的に「先行技術A+先行技術B=自分の発明」になっても、それが容易に思いつけなければ進歩性ありとなります。なお、容易に思いつけるかどうかの判断主体は「当業者」。つまりその業界のプロの視点から見てどうか、ということです。

容易に思いつけない場合は、例えば、以下のような場合です。

  1. 先行技術Aと先行技術Bを組み合わせる動機付けがない
  2. 先行技術Aと先行技術Bは互いに機能的又は作用的に関連しておらず、単なる寄せ集めにしか過ぎない
  3. 先行技術Aと先行技術Bを組み合わせると、先行技術と比較して有利な効果が得られる
  4. 先行技術Aと先行技術Bを組み合わせることに阻害要因がある

例えば自分の発明が「A+B」という構成であり、文献1に「A」、文献2に「B」という構成の技術が記載され、これらが組み合わせ容易である場合は、進歩性なしとなります。

自分の発明(出願にかかる技術)先行技術1先行技術2
A+BAB
進歩性なしの例

進歩性では複数の先行技術が引用されることが多いですが、先行技術1件が引用された場合でも進歩性なしとされる場合があります。それは先行技術と自分の発明との差分が設計変更にすぎない程度のものである場合です。この場合、当業者であれば自分の発明を容易に思いついてしまいますからね。