本記事のポイント
  • 特許出願の補正は、出願人が急いで出願した際等に生じた不備を補正するための救済策。
  • 補正できる時期と範囲・内容には制限があり、審査フェーズが上がるにつれて制限が多く課される。
  • いずれの時期においても、出願の初めから書いていない内容を補正により補充することはできない。

1. 補正の概要

特許出願の内容は、特許査定がでる前(厳密には特許査定謄本送達前)であれば、所定条件下で補正できます(特許法第17条の2)。正式名称は「手続補正」です。

「補正」って、もしかしたら、特許にあまり馴染みがない方ほど、「良いことじゃん。間違っているところや足りないところを後から手直しできるんでしょ?」と、単にポジティブに捉えているかもしれません。

たしかにいいこともあるのですが、そんなに甘くはありません。補正できる「内容」には制限があります。大原則として、補正できる内容は出願時の内容の範囲内に制限されています。つまり、出願の初めから書いていない内容を補正により補充することはできない、ということです。

また補正できる「時期」にも制限があります。出願から最初の拒絶理由通知を受ける前まではいつでもできますが、一度拒絶理由通知を受けた場合には、審査フェーズが上がるにつれて補正の「時期」と「内容」の制約がどんどん厳しくなるというイメージです。

2.補正は何のためにある?

特許は「早い者勝ち=先願主義」の世界なので、「誰もがいち早く出願したい」と思うのは当然ですよね。

しかし出願人が焦って急げば急ぐほど、不備もあって、「後から手直ししたい」ことが出て来るというのは仕方ないことですよね…。だから、特許庁は、そうなったときの救済策として「補正」という手段を用意しているんです。

しかし、いくらでも自由に手直ししていいよ、ということにはなりません。それは出願人にとっては有り難いけど、逆に、審査官や第三者にとっては、「最初の出願は何だったんだ?原型を留めていないじゃないか!ふざけるな!」と、不公平極まりないことになり兼ねないからです。

そこで、補正できる「時期」と「内容」には、制限があるのです。

3. 補正できる「時期」の制限

補正できる時期は以下の5つです。

補正できる時期

(1)出願から最初の拒絶理由通知を受ける前まで

(2)最初の拒絶理由通知を受けた場合の応答期間

(3)最初の拒絶理由通知後、文献開示通知(先行技術文献が開示されていない旨の通知)を受けた場合の指定期間

(4)最後の拒絶理由通知を受けた場合の応答期間

(5)拒絶査定不服審判の請求時

時期(1)で行う補正を「自発補正」といいます。また時期(3)はあまりこないです。

拒絶理由通知に「最初」や「最後」があることに気づいた方がいるかもしれません。最初の拒絶理由・最後の拒絶理由については、追って説明したいと思います。

4. 補正できる「内容」の制限

補正できる内容の制限は、いくつか種類があります。

補正できる内容の制限

(1)出願の初めから書いていない内容を補正により補充することはできない(新規事項追加禁止)

(2)その補正の前後で発明の本質を大きく変えることはできない(シフト補正の禁止)

(3)下記の目的(i)-(iv)以外の目的では補正できない(目的外補正の禁止)

  (i)請求項の削除
  (ii)特許請求の範囲の減縮
  (iii)誤記の訂正
  (iv)明瞭でない記載を明瞭なものとすること

前章で補正できる時期が5つあることを説明しましたが、各時期によって、内容の制限が厳しくなります。

簡単に言うと内容の自由度は、

(1)>(2)=(3)>(4)=(5)となります。

内容制限(1)内容制限(2)内容制限(3)
時期(1)
時期(2)
時期(3)
時期(4)
時期(5)

内容制限(1)は、デフォルトで課されます。出願日を確保しながら、いくらでも内容を追加できてしまうと、不公平極まりないですからね。内容を追加する場合は、補正ではなく国内優先権制度を使います。

上のテーブルから、審査フェーズが上がるにつれて、制限が多く課されていることが分かると思います。

5. まとめ

以上、特許出願の補正について説明しました。

  • 特許出願の補正は、出願人が急いで出願した際等に生じた不備を補正するための救済策。
  • 補正できる時期と範囲・内容には制限があり、審査フェーズが上がるにつれて制限が多く課される。
  • いずれの時期においても、出願の初めから書いていない内容を補正により補充することはできない。

いかがでしたか?審査においてどのような先行技術が引用されるかを正確に予測することは難しいですが、出願時に、将来補正できるような内容を可能な限り詰め込んでおくことが重要となります。