きのか特許事務所の弁理士室伏です。このシリーズでは、「特許情報からどんなことが分かるか」をお伝えするために、特許情報の簡易分析事例をご紹介します。

第1回はゲーム業界の簡易分析事例を、第2回はニット業界の簡易分析事例をご紹介しました。

そして第3回、第4回は、特許の発明者分析、第5回は和歌山の企業の特許出願動向を見ていきました。

第6回である今回から複数回に分けて、ビジネスモデル特許の出願動向を見ていきます。

1. ビジネスモデル特許とは?

まず初めに「そもそもビジネスモデル特許とは何か」についてご説明します。「ビジネスモデル特許」とは、「ビジネス方法がICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現された発明」についての特許です。

この記事をお読み頂いている読者の方の中には、「特許はものづくり企業のもの」と考える方がおられるかもしれません。しかしサービス業、運輸業、金融業などの各種業種のビジネスアイデアも「ビジネスモデル特許」という形で特許になり得ます。

ここでビジネス方法自体は特許の保護対象ではなく、通常は特許をとることができません。しかしそのビジネス方法がICTを利用して実現されているものであれば、ソフトウェアの発明として特許を取ることができる場合があります。つまりビジネスモデル特許は、ソフトウェアの特許の一種なのです。

ビジネス関連発明の最近の動向について(特許庁HP)より抜粋

ビジネスモデル特許の例としては、Amazonのワンクリック特許が有名です。ECサイトにおいて商品を購入するとき、住所確認や支払い方法の確認といった煩わしい処理を経ずに、ワンクリックですぐに商品を購入できるという発明です。

2. ビジネスモデル特許の出願件数の推移

ビジネスモデル特許の特許分類(IPC・FI:G06Q)を用いてビジネスモデル特許の出願件数の推移を調べました。

1998年に米国でビジネス方法に関する特許の有効性が示されたことをきっかけに、我が国でも2000年からビジネスモデル特許ブームが到来。一気に出願件数が上昇しました。

しかし当時は特許査定率が低かったためかブームは長く続かず、出願件数はその後減少していきました。

そしてその後10年経過し、2011年から上昇に転じています。この原因は、ソリューションビジネスの開発の活発化、スマートフォンやSNSの普及、AI、IoT技術の進展等が挙げられます。懸念されていた特許査定率ですが、年々上昇し、2017年には他の技術分野と同等の水準(74%)となったようです(参考)。

3. 技術分野の傾向

近年増加傾向のビジネスモデル特許ですが、どういった分野が出願されているのでしょうか。特許分類(FI)のメイングループ別に出願件数を見てみましょう。

特定の業種向け(G06Q50)が最も多いです。この特定の業種には様々な業種が含まれており、例えばSNS、農業・漁業・鉱業、製造業、電気・ガス・水道事業、建設業、サービス業、運輸業、及び通信業等が挙げられます。こんなに沢山の業種が含まれているので、出願件数が多いのも納得です。

次に商取引に関するもの(G06Q30)、管理・経営に関するもの(G06Q10)、支払アーキテクチャに関するもの(G06Q20)、金融・保険・税務に関するもの(G06Q40)が続きます。

これを見ると、金融系(G06Q40)は出願件数が比較的少ないですね。

では、最近ホットな分野はどれでしょうか。FIメイングループ×出願年別に出願件数を見てみましょう。

どの分野も出願件数が年々増えています。管理・経営系(G06Q10)は伸び率が高く、比較的ホットな分野と言えるでしょう。管理・経営系(G06Q10)の例としては、予約サービス、プロジェクト管理、人員管理、及びオフィスオートメーション等が挙げられます。

4. まとめ

  • ビジネスモデル特許は、ソフトウェアの特許の一種であることを説明しました。
  • ビジネスモデル特許の出願件数の推移を調べました。出願件数は2000年のビジネスモデル特許ブームが過ぎて減少していましたが、近年は増加傾向であることが分かりました。
  • 技術分野の傾向を調べました。金融系(G06Q40)は出願件数が比較的少ないことが分かりました。また管理・経営系(G06Q10)は大きく成長していることが分かりました。

次回は出願件数が比較的少ない金融系(G06Q40)のビジネスモデル特許について深掘りしたいと思います。

ここまでお読みいただきましてありがとうございました。