1.海外展開における知財取得の重要性

近年、企業にとって海外展開は重要な経営戦略の1つです。海外展開を検討している企業は、日本だけで”権利をとればいいのでしょうか。答えはNOです。

特許権は、原則、権利取得した国で“のみ”効力を及ぼします。これを「属地主義」と言います。

企業が海外展開先の国において知財を権利化していなかった場合、現地の第三者による先駆け出願で自社がその国において事業をできなくなったり、現地の第三者が安価な製品を販売して競争力がなくなったり、日本からの輸出ができなくなってしまう…なんてことが起きます。

海外展開を考える企業は、日本だけでなく、海外展開先の国においても特許出願をして、権利取得する必要があります。

2.パリルートとPCTルートの概要

日本企業が海外に特許出願をするには、主に2つの方法があります。

(1)パリルートで各国に直接出願
パリ条約の優先権を主張して、権利取得を希望する国それぞれに直接出願をする方法です。各国における新規性・進歩性などの登録要件に関する審査は、日本で出願した日を基準日として行われます。

(2)PCTルートで出願
特許協力条約(PCT)に基づいて、国際的に統一された様式の出願書類を1通、自国の特許庁に出願する方法です。「PCT出願」とも呼ばれます。各国の出願日はPCT出願の出願日となります。優先権主張をした場合は、各国における新規性・進歩性などの登録要件に関する審査は、日本で出願した日を基準日として行われます。

3.パリルートの手続

パリ条約の優先権を主張して、権利取得を希望する国それぞれに直接出願をする方法です。各国の官庁に対して、各国の様式、各国の言語、各国の手数料で、別々に出願します。

パリルートで出願する場合、日本の出願(国内出願)の出願日(優先日と言います)から1年以内に出願しなければなりません

したがって、国内出願の出願日から1年を経過する前に、出願する国を決めて、各国の翻訳文を用意し、現地代理人に各国の様式による出願手続を依頼しなければなりません。結構タイトなスケジュールとなります。

各国に出願後は、その国の法令に従って方式審査、出願公開、および実体審査が行われることとなります。

なお権利取得を希望する国の数が少ない場合は、PCTルートよりもパリルートのほうが費用が少なくて済みます

4.PCTルートの手続

PCTルートは、パリルートの前半の方式手続きを一本化した出願です。イメージはこれ↓

例えば日本の出願(国内出願)を基礎として優先権主張してPCT出願をする場合の流れを、以下の図に示します。

日本の出願(国内出願)の出願日(=優先日)から1年以内にPCT出願という国際的に統一された様式の出願を日本国特許庁に対して行います。PCT出願は日本語で出願できるので、この時点で翻訳文は必要ありません。

PCT出願をすると、「国際調査」が行われ、出願人は調査結果を受け取ることができます。この時点で特許性がなければクレームの補正を1回行うことができます(19条補正)。また優先日から18か月経過後に「国際公開」が行われ、出願の内容が公開されます。また手数料を支払って「国際予備審査」という審査を請求すれば、追加で審査してもらえます。「国際予備審査」を請求した場合、補正の機会が与えられます(34条補正)。

つまりPCT出願をすれば各国に移行する前に(国内移行は後述)国際的な調査の見解が得られるのです。しかもPCT出願をすれば各国まとめて補正する機会が得られるのです。

PCT出願はあくまで各国の出願の出願日を確保するための「仮」の状態であり、PCT出願をしただけでは各国に正式に出願したことにはなりません。正式に出願したことにするには「国内移行」という手続きが必要となります

「国内移行」は、優先日から原則30か月以内に各国官庁に対して行います。このとき各国官庁にその国の言語の翻訳文を提出します。

したがって優先日から30か月までにどの国に移行するかを決めて、翻訳文を用意すればよいということになります。どの国に移行するかどうかは、そのときの事業の状況や調査結果に基づいて判断すればよいのです。パリルートよりも決定を先延ばしにできます

なお出願する国がすでに決定していて、出願を「アメリカだけ」「中国だけ」に絞る、というようなケースにおいては、PCTルートのほうが費用が高くなることがあります。しかしお金を払ってでも決定を先延ばしにしたい場合はPCT出願が有効です

なお国内出願を経ずにダイレクトでPCT出願をする方法もあります。「ダイレクトPCT出願」と呼ばれます。日本に加えて外国に出願することが最初から決定している場合はこちらがオススメです。

5.パリルートとPCTルートの比較まとめ

パリルートとPCTルートのメリットをまとめると、以下のようになります。

メリット
パリルート・権利化したい国が少ない場合は、費用が安く済む
・各国の事情に応じて出願内容を変更できる
PCTルート・手続きが簡便
・権利化したい国の決定を先延ばしできる(∵移行期限が原則30か月)
・翻訳文を用意する期間を確保できる
・各国に移行する前に特許性の有無が確認できる+まとめて補正できる(∵国際調査報告、予備調査報告)

なお当事務所では、国内出願に加えて国際出願も取扱っております。海外展開をお考えの企業様は、お気軽にお問い合わせください(お問い合わせフォームはこちら)。

次の記事では費用について比較しています。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。