こんにちは。きのか特許事務所の弁理士の室伏です。

大企業や出資者によるノウハウや知財の吸い上げが問題となっている

共同開発していたのに、勝手に出願された・・・

協力関係を求めたことで自社のアイデアや営業秘密が持ち出された・・・

中小企業やスタートアップが、大企業や出資者との間の取引において、納得できない行為を受けるという事例をしばしば耳にします。

公正取引委員会による「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」(令和2年11月)によると、連携事業者または出資者から納得できない行為を受けた経験があるスタートアップは全体の約17%。そのうち約42%が納得できない行為を受け入れたということです。

納得できない行為とは、優越的な地位にある事業者大企業出資者NDAを締結しないまま営業秘密を無償開示するように要請するなど、スタートアップからノウハウや知財を不当に吸い上げるような行為です。

また公正取引委員会による「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」(令和元年6月)にも、優越的な地位にある事業者が中小企業からノウハウや知財を不当に吸い上げている事例が多く報告されています。

知的財産取引に関するガイドライン

このような背景から、中小企業庁は「知的財産取引に関するガイドライン」を公表しています。

このガイドラインでは、参考事例別に「あるべき姿」を示しています。中小企業やスタートアップが大企業から不当な要請を受けてこれを拒絶したい場合に、ガイドラインを提示することが有効な場合があります。

例えば以下のような参考事例が記載されています。参考にしてください。

(1)参考事例1:秘密保持

中小企業

A社は、B社からA社への工場見学を検討している旨連絡を受けたが、A社が何度依頼してもB社は機密保持契約に応じてくれない

これに対して「あるべき姿」は以下です。

ガイドライン

当事者の意思に反するような形で事前に秘密保持契約を締結することなく、取引交渉や工場見学等、相手方のノウハウや技術上又は営業上の秘密等を知り得る行為をしてはならない。この場合において、一方当事者のみが秘密保持義務を負う内容のものであってはならない。 一方、秘密保持契約を締結する場合においても、当事者が機密保持契約を締結する目的に照らして、必要以上に秘密情報を提供する企業の事業活動を制限しないように配慮しなければならない。

(2)参考事例2:共同研究開発における成果の権利の帰属

中小企業

E社では共同研究という名目でも、すべてE社に権利が帰属するといった契約書ひながたを用いている。

これに対して「あるべき姿」は以下です。

ガイドライン

共同研究開発によって得られた成果の帰属は、技術やアイディアの貢献度によって決められることが原則である。特に、もっぱら中小企業のみが技術やノウハウ、アイディアを提供している場合であって、大企業あるいは親事業者のみに単独で帰属させるときには、原則としてノウハウ等の広義の知的財産権を含む適切な対価を支払わなければならない。その際、技術等を提供した中小企業が望めば、共同研究の成果を同社も利用できるよう、無償で実施権を設定する、もしくは優先的に専用実施権を得る権利を付与するなど、共同研究に携わった中小企業の利用可能性に配慮しなければならない。

(3)参考事例3:無償の技術指導・試作品製造等の強制

中小企業

A社はB社より製造委託を受けていたが、ある時からB社はC社に発注先を変更した。しかし、C社がうまく製造できないことを理由に、A社からC社に技術指導を無償で実施するように強制された

これに対して「あるべき姿」は以下です。

ガイドライン

競合する取引先への技術指導、試作品の製造や技術指導、実験等を意に沿わない形で強制してはならない。また、試作品等の製造を依頼する場合には、実費(材料費、人件費等)は当然のこととして、技術に対する対価、利益を含む適切な対価を支払わなければならない

(4)参考事例4:特許出願への干渉

中小企業

A社はB社から製造委託を受託しているが、受託内容に直接関係ない特許出願についてもB社に報告する義務があり、B社から出願内容について要請を受け、共同出願にさせられることがある。

これに対して「あるべき姿」は以下です。

ガイドライン

取引とは直接関係のない又は中小企業が独自に開発した発明その他これに係る独自の改良発明等の出願、登録等について、事前報告や出願等の内容の修正を求めるなど、企業が単独で行うべき出願等に干渉してはならない

(5)参考事例5:知財訴訟等のリスクの転嫁

中小企業

A社はB社からの指示に基づく業務にも関わらず知的財産権に関する訴訟等が生じた場合、A社はその責任を負うという契約条件を押し付けられた。

これに対して「あるべき姿」は以下です。

ガイドライン

発注者の指示に基づく業務について、知的財産権上の責任を、中小企業等に一方的に転嫁してはならない

このようにガイドラインには、大企業と中小企業の対等な取引関係を築くための、国の考え方が示されています。

参考事例と似たような要請を受けたが拒絶したいという場合には、相手方にガイドラインを提示することを検討ください。

弁護士・弁理士を味方に!

そうはいっても、重要な取引先にガイドラインを提示するというのはハードルが高いものですよね・・・そんなときは、「弁護士/弁理士からガイドラインを示されたのですが・・・」と外部専門家を言い訳にする方法があると思います。ぜひ外部専門家に味方についてもらいましょう。

ただしお困りごとが生じたときに、味方になってくれる外部専門家を1から探すとなると大変です。その弁護士や弁理士が、すでに競合他社の案件を扱っている場合、利益相反を理由として依頼を断られることがあります。

一方、弁護士や弁理士と顧問契約をしていると、原則味方についてもらえます。そういう意味で、早い段階から顧問をつけることをおすすめします。

弊所でも知財顧問サービスを提供していますので、どうぞご検討ください。

ここまでお読みいただきありがとうございました。