きのか特許事務所の弁理士の室伏です。

農林水産物のブランディングは、地域の特産品やその品質をアピールし、競争力を高める上で非常に重要です。特に、地域団体商標制度GI(地理的表示)制度を活用することで、商品の価値を向上させ、消費者に対して信頼性を訴求できます。

この記事では、地域団体商標制度GI制度について詳しく紹介し、その利点や活用方法を解説していきます。これらの制度をうまく取り入れることで、地域の農林水産物が持つ独自の魅力を最大限に引き出し、ブランディングの成功につなげましょう。

地域団体商標制度とGI制度は、両方とも「国のお墨付き」をもらって地域産品の価値を高めるための制度ですが、その性格や範囲に違いがあります。以下に、それぞれの制度の違いを解説します。

地域団体商標制度

地域団体商標制度は、特定の地域に関連する商品やサービスに対して、地域ブランドの名称(たとえば「地域名+商品・サービスの名称」)を商標として登録し、特定の団体がその名称を独占することができる制度です。

地域団体商標の登録例

有田みかん、和歌山ラーメン、泉州水なす

このような「地域名+商品・サービスの名称」といった名称は、識別力が低いため、全国周知の名称でなければ通常は商標登録を受けることができません。しかし「地域団体商標制度」を利用すると、周知性の登録要件が緩和されるというメリットがあります。なお「地域団体商標制度」は、農協や商工会議所といった地域に根ざした団体しか利用できません。

登録を受けると地域の名物として国からお墨付きをもらったことになるので、取引の際の信用力の増大や商品・サービスのブランド力の増大につなげることができます。また、商標登録によって模倣品の流通を防ぎ地域産品の価値を維持・向上させる効果があります。

また地域団体商標は、登録を受けると、地域団体商標マークと併せてその産品の名称を使用することができるようになります。これにより、より一層のブランド力向上が期待されます。

特許庁HP「地域団体商標マーク~「地域の名物」の証です~」より

GI制度

GI制度は、特定の地域で生産される農林水産物や食品について、その地域と結びついた名称を表示することで品質や特性を保証する制度です。

GIの登録例

紀州金山寺味噌、わかやま布引だいこん、神戸ビーフ

(調べたところ、令和5年5月8日現在で大阪府の登録例はありませんでした)

GI制度では、その商品が特定の地域で生産され、その地域ならではの自然や人的要因によって品質や特性が確保されていることが求められます。特に、特性を維持した状態で概ね25年(!)の生産実績があることが求められます。

GI制度に登録された商品は、その地域と結びついた名称を表示することができるため、消費者に対してその商品が持つ品質の独自性や信頼性をアピールできます。また、GI制度は国際的な取り決めに基づいているため、海外市場での競争力も高める効果があります。

またGI登録を受けると、GIマークと併せてGIを使用することができるようになります。

地理的表示保護制度登録申請マニュアル より

地域団体商標とGIの違い

地域団体商標制度とGI制度の違いは、以下の特許庁による資料にまとめられています。

特許庁「地域団体商標と地理的表示(GI)の活用Q&A」 より

違いは様々ですが、代表的な違いは、登録要件、費用、独占可否です。

(1)登録要件

地域団体商標が重視するのは「識別力。したがって「一定の周知性」が必要です。一方でGI制度が重視するのは「伝統性」。したがって「25年の実績」が必要です。性質の違いはありますが、GI制度のほうが登録要件が厳格であるという印象があります。

(2)費用

GI制度は更新手続きはありませんが、地域団体商標は10年ごとに更新の手続きが必要です。更新を前提として考えると、費用はGI制度のほうが安くなります。

(3)独占可否

地域団体商標は、登録を受けると、特定の団体がその名称を独占して使用することができます。「独占できる」ということは、他事業者を排除できる、つまり使用差止や損害賠償請求ができる、ということです。

一方、GIは、特定団体による「独占」の対象ではなく「地域の共有財産」となります。基準を満たせば後発の団体も使えるようになるのです。なお不正使用をする第三者については行政が取り締まります

なおGIは、登録を受けた生産者団体の不適当な管理についても取り締まりがあり、品質管理にも厳格な制度といえます。登録後も定期的に国によって生産工程管理状況をチェックされ、適切に行われていない場合には措置命令が下され、最悪取消になります。生産者団体が複数の団体で構成されている場合は、複数の団体に対して同様の品質管理を行うという難しさが課題となってくるでしょう。

まとめ

農水産物のブランド力向上の手段として、地域団体商標制度とGI制度をご紹介しました。

周知性を登録要件として、原則自己管理型の「地域団体商標制度」と、実績を登録要件として、登録後も国から厳格なチェックを受ける「GI制度」。

どちらを登録すべきかは、登録要件と目的で決めましょう。

最近生産を始めてちょっと有名になってきたとか、ブランドとして自分たちで独占したいなら、地域団体商標をご検討ください。

有名ではないが長年生産してきたとか、産品の品質の強みを見える化したいとか、取り締まりは国にお任せしたいならGIをご検討ください。

「どっちを登録すべきかわからない・・・」そんな方は、ぜひ我々専門家にご相談ください!

なお地域団体商標とGIは併用もできますので、予算に都合がつけば両方登録することもご検討ください。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。