こんにちは。「きのか特許事務所」です。

寒さの中にも、ふとした瞬間に春の気配を感じる季節となりましたね。オフィスの近くにある梅の木も、少しずつ蕾をふくらませていて、その健気な姿に毎朝励まされています。皆様はいかがお過ごしでしょうか。

さて、 2026年1月12日(月・祝)にLEC東京リーガルマインド 新宿エルタワー本校にて、
「大企業研究職から独立開業した弁理士が語る
『今、弁理士を目指すべき本当の理由』

についてお話しさせていただきました。

本講演では、資格の説明にとどまらず、「安定とは何か」「これからの時代に専門職はどのように生きるべきか」という本質的なテーマについてお話ししました。

本記事では、当日のアジェンダに沿って、その内容を整理いたします。
これから弁理士を目指す方、あるいは現在のキャリアに閉塞感を感じている方にとって、新たな視点を提供するきっかけになれば幸いです。

1.安定の定義が変わった

かつては、大企業に勤務し、終身雇用のもとでキャリアを重ねることが安定とされていました。企業の看板そのものが信用であり、組織に属していることが安心材料であった時代です。

しかし現在はどうでしょうか。

これらの記事が示すのは、企業業績が好調であっても人員削減が行われる時代になっているという現実です。AIの進展により、従来の業務が再構築される流れも加速しています。

「今は会社が守ってくれているけれど、もしこの看板がなくなったら、私には何が残るんだろう?」

組織に依存した安定は、環境変化とともに揺らぎます。
一方で、市場で通用する専門性は、所属組織が変わっても残り続けます。

これからの時代の安定とは「組織」ではなく「専門性」

弁理士という国家資格は、その専門性を明確に示す手段の一つです。資格がすべてを保証するわけではありませんが、「自分の力で価値を提供できる基盤」を築くことは、将来に対する確かな備えになると考えています。

2.弁理士という働き方

https://www.photo-ac.com/main/detail/1462777/1

弁理士は、特許・商標などの知的財産を扱う専門家です。技術内容を理解し、それを法的に適切な権利として設計する役割を担います。

室伏はもともと研究職として技術開発に携わっていました。その経験は、弁理士としての現在の実務に直結しています。発明者の思考や開発現場の背景を理解できることは、知財実務において大きな強みとなります。

弁理士の働き方には、いくつかの選択肢があります。

  • 企業内弁理士として勤務する
  • 特許事務所に所属して専門性を高める
  • 経験を積んだうえで独立開業する

重要なのは、選択肢を持てる職業であるという点です。

専門職であるがゆえに、一定の経験と実績を積めば、自らの意思で働き方を選ぶことが可能になります。これは、将来設計を考えるうえで大きな強みになります。

会社という船と自分専用のボート>
会社という「大きな船」にしがみつくリスクは、弁理士資格という「自分専用のボート」を持つことで選択肢が増え、得体のしれない不安の手助けになるのでは、と思います。

3.独立への道

大企業の研究職として社会人経験を積んだ後、弁理士の専業受験生期間を経て、弁理士特許事務所を2所経験し、中小規模の組織の中で指導者の下で実務経験を積み、その後独立しました。
これまでのキャリアが無駄になったのかと言えばそんなことはなく、むしろ意思の決定プロセスや開発者への理解につながり、外部専門家としての武器になると感じています。

独立を決意したときは勇気が必要でしたが、不安な人ほど資格はお守りになります。

独立にあたり、設定したのは下記のことでした。
・2年間の期限を設定し、ダメなら再就職すればいい、という割り切り(撤退ラインの決定)
・資格はどこに行ってもいやっていけるというある種のセーフティネット

幸い撤退は免れ、大きな危機もなく現在も特許事務所の運営を続けられております。
「ダメなら再就職すればいい」というお守りがあるからこそ、アクセルを踏んで決断ができます。

4.独立後のリアル

独立直後は、「弁理士」という資格そのものが社会的信用となり、経営者や金融機関とも対等な立場でお話しできるという強みがあります。いわば資格が“下駄”を履かせてくれる状態であり、実績が十分でなくても一定の信頼のもとでチャンスをいただけます。しかし、その信用は永続的なものではありません。組織の看板ではなく個人名で仕事をする以上、その後は自らの姿勢と実務の積み重ねが評価そのものになります。

弁理士業界は「利益相反」の規律が厳しく、一度ある立場で関与した案件については反対側に立つことができません。だからこそ、業界内では「信頼」が何より重視されます。
その信頼関係の中で生まれるのが、同業者や弁護士・税理士など他士業からの「紹介」です。紹介は単なる案件の受け渡しではなく、「この先生なら安心して任せられる」という信用のバトンです。

誠実で責任ある対応を積み重ねることで「あの先生なら大丈夫」という評価が広がり、新たな出会いと実績につながります。そしてその実績がさらに紹介を呼ぶ――こうして信用と仕事の好循環が生まれます。
独立後に本当に問われるのは、資格そのものよりも、日々の誠実な仕事姿勢なのです。

5.AI時代の働き方

UnsplashIgor Omilaevが撮影した写真

現代のビジネスを語る上で避けて通れないのが「AI」の存在です。 「AIが進化すると、士業の仕事はなくなるのではないか?」という懸念をお持ちの方も多いでしょう。

確かに、現在の生成AIの進化は目覚ましく、文章作成や膨大な情報の整理といった分野では人間を凌駕する能力を見せています。
しかし、AI技術がいかに進化し驚異的な能力を発揮したとしても、AIはあくまで優秀な「作業者」という位置づけに留まると考えています。ビジネスの根幹を成す「信用」や「信頼」といった要素は、人間同士の関係性の中でしか構築し得ないものだからです。

実務への導入を検証する中でも、既存の事務的な作業プロセスの多くがAIに代替される可能性を強く感じ、ある種の危機感を覚えるのも事実です。しかし、どれほど機能が向上しても、AIには決して担うことのできない領域が存在します。それは「責任を持って対応する」ということです。

業務において誰かに相談や判断を仰ぐ際、私たちは単に論理的に正しい回答だけを求めているわけではありません。その人の言葉に込められた覚悟や、責任ある態度に触れることで、迷いに対する後押しを得たり、安心感を覚えたりするものです。最終的な意思決定を下し、その結果に対して責任を負うという行為は、人間にのみ許された役割と言えるでしょう。

したがって、AIが普及するこれからの時代においては、単に作業をこなす能力ではなく、以下の要素を兼ね備えた人物の相対的な価値が高まっていくはずです。

  • 結果に対して責任を持ち、業務を全うできる姿勢
  • 高い専門性に裏打ちされ、顧客や周囲から信用される力

AIを優秀な作業者として活用しながらも、私たちは「信用」をキーワードとして、人間ならではの責任ある仕事に向き合っていく必要があるのではないでしょうか。

6.なぜ短期合格を目指すべきか

これから学習を始める方に、私が「短期合格」を強く推奨する理由は極めてシンプルです。
それは、資格があくまでこの業界で仕事をするための「入場券」にすぎないからです。

合格はゴールではなく、プロフェッショナルとしてのスタートラインに立つための通過点であり、早く合格すればそれだけ早くキャリアをスタートさせることができます。
一方で、受験勉強には相当な精神力を要します。特に働きながら学習を進める場合、長期戦になればなるほどモチベーションの維持は困難になります。

短期合格を実現するためには、漫然と学習するのではなく、「合格への戦略的選択」が必要不可欠です。
私の経験に基づき、特に重要と考える要素は以下の通りです。

  • モチベーション維持:長期戦は精神力を著しく消耗するため、短期決戦を前提とする
  • 相性の良い講師:自分のリズムやテンポに合う指導者を見つける
  • 一貫性の重視:指導法を統一し、学習上の迷いをなくす

特に講師選びについては、様々な講座を少しずつ受講する「つまみ食い」のような学習法は指導法に一貫性がなくなり、自身の理解に迷いが生じるリスクがあります。
私自身は、抑揚があり飽きのこない授業を展開される講師に師事し、その指導法を信じてついていくことで短期合格を果たしました。仕事で疲弊していても集中を持続できるような、自分と相性の良い指導者を見つけることが、迷わず最短ルートを走る秘訣と言えます。

また、新たな挑戦を始める際、「失敗したらどうしよう」「周囲からどう見られるか」といった不安を感じ、足がすくむこともあるかもしれません。

誰もあなたのこと
そんなに見ていないから
自由にやったら

チームWADA『本物の外科医が母校の後輩達にエールを送ってきた』
 https://www.youtube.com/watch?v=p942iXtXwnc

確かにプロとして仕事をする上での「信用」には他者の視点が必要ですが、挑戦の段階においては、自分が思うほど他人は自分のことを見ていないものです。

未来への不安は行動によってのみ払拭できます。
まずは恐れずに一歩を踏み出し、業界への「入場券」を手に入れることから始めてみてはいかがでしょうか。

https://www.photo-ac.com/main/detail/4312265?title=%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%81%AE%E6%96%87%E5%AD%97

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。 今回の記事を通じて、弁理士という仕事が持つポテンシャル、そして変化の時代におけるキャリアの築き方について、少しでもイメージを膨らませていただけたなら嬉しく思います。

寒暖差のある日が続きますが、体調を崩されぬようご自愛ください。
春の訪れとともに、皆様が新たな一歩を踏み出せることを願っています。

おまけ: 質疑応答編

弁理士は、自分の専門外の案件も担当するのか?対応できるのか?

室伏

弁理士はさまざまな案件を担当します。
主に機械、電気、化学、バイオのくくりで分野は分かれています。

機械系の弁理士は、機械系の技術分野の中で様々な案件を担当します。
自分の専門にドンピシャな案件が都合よくくるわけではないので、
また複数の領域にまたがって案件を担当することもあります。
機械と電気を両方担当したり、化学とバイオを両方担当したり。
機械・電気と、化学・バイオとで、技術の性質や知財実務がかなり異なるため、ここには少し壁があるイメージです。
(つまり、機械と化学を両方できる弁理士は少ない)

特許実務をするために、発明者と同等の知識レベルが求められるわけではありません。実務に必要な知識を、必要に応じてみなさん勉強されて、案件に取り組まれています。だから心配しないでください。さらに生成AIの進化によって、技術常識への理解のハードルは下がっているので、より新しい分野にチャレンジしやすい時代になってきていると思います。